ウマ娘:シンデレラで心臓に悪い

シンデレラグレイというタイトルだけで胸が高鳴った
まるで夜の馬場が暗闔したような予感だった

最初から彼女たちの声が耳元まで届いていた気がする
誰よりも速く走ろうとするその焦燥感が肌に染み付き
ただ見るだけでなく呼吸さえ忘れていたほどだ
グラフィックの色使いが心拍数を上げさせたのは言うこと無し
特に白い衣装の少女が太陽に向かって歩む瞬間に
何か大切なものを失っているように感じられた

通勤電車の中で偶然手元を見ると
隣の人が同じ冊子を開いているのが分かった
薄れた光の中でも文字の存在を感じ取っていたらしい
夕暮れ時の窓辺でコーヒーを飲んでいると
突然思い出されたのは幼少期に見た映画
あの頃のように今にも泣きたくなる衝動に襲われた

ある日の休日、駅前で小さな子どもが笑顔で本を探しているのを見て
久しぶりに自分の目で確かめたくなった
そして立ち尽くしていたのは
それまでの日常がいかに単純なものであるか気づかせてくれた

どこか切ないけど温かい空気に包まれているようで
読み終わったらすぐにまた始めたくなるような中毒性
そんな気持ちでいっぱいになった

今はいつしか棚に戻されてしまったけれど
きっとどこかで待っていてくれるはずだと信じてる
気になる人はどうぞ気軽に探してみてほしい
電子書籍ならどこでもすぐさま手に入るだろう

物語中の少年と馬との会話を思い出してしまった
声に出しそうになるほどの温度差があるから不思議なのだが
まるで彼女たちが自分自身を演じきっているかのようだった
その瞳には未熟さがあったとしても
決して飾らずに描かれていることが胸を締める

夜遅く家についたらカーテン越しに月が出ていることに気がつき
いつもと同じ道を通るのが妙に億劫になってくるようになった
このままでは眠れそうもないくらい思考が浮遊状態になっている
何度も開いてしまうページがあり
そこにあるセリフはもう一度聞こえはじめた気がしてしまう

朝焼けの階段を上がるのは嫌いでなかった
しかし今日も昨日も明日も続くことを知ってしまったのだ
読者の私はただ静かな叫びを投げかけてみたいという気持ちになった
これは誰にも渡せない孤独でありながら
どこか他人事のように響いてくるものなのだ

雨上がりの街角で誰かと一緒にいるような錯覚に落ち込むことがある
それこそが現実離れしたものと思えたのかもしれない
それでもなぜかその世界へ戻ってしまいたくて仕方がない
一瞬にしてすべてを忘れさせてくれる魔法の結末だったのである

今更気づけばいつしか一緒に過ごしている日々が過ぎ去っていた
あの頃の君はまだ何も知らない子供だったはずなのに
今は違う存在になろうともせず
同じ空を見上げるようにしていた

深夜のテレビ画面が暗闇に溶けていくときほど
彼女の目元が心地よい焦燥を感じさせる
そんな些細なことでも満ちてゆくのは
日常の中に隠された何かが芽生えるからだ

駅前でコーヒーを飲んでいる人影が通りすぎるたび
無邪気な笑顔が突然思い出される
まるで自分がそこに居たように感じる
その温もりがまた新たな不安を呼び起こす

電車の中で軽く肩を触れることもなく
会話を交わすことさえできずに終わってしまうことも多い
けれどそれは決して悲しくはない
お互いにとってちょうどいい距離なんだ

読めば読む程に自分の人生が歪んで見えるようになり
他の人の物語に救われたくなるのが不思議だ
そしてまた次のページを開こうとする衝動が止まらない
どんな未来があろうと立ち止まれぬ運命に変わりたくないのだ

雨上がりの道端で偶然出会った時のように
胸が高鳴るのはなぜだろう
相手の瞳に映る自分自身の姿に
どこか恥ずかしさと誘惑が混ざってゆく

朝焼けの中を歩いていると
ふと背後から聞こえた声が震えていることに気がつく
それだけで心臓がドンドンと叩き始めてしまう
この世界に縁があるもの全てが
どうにもできないほどの引力を持っている

いつもと同じ時間に窓辺に座っているのに
今日は特別な理由があっていないような気がしてしまう
その違和感が胸に迫ってきて
呼吸が浅くなったりするくらいになることがある

ただそっと指先を合わせたり
無理やり笑顔を作ったりしながらも
そこにあるものはもう取り替えられない
だからこそ繋ぎ止めたいという気持ちになってくる

夕暮れ時の公園での散歩が好きだが
一人で歩いていたとしても
目の前にいる誰かとの違いが感じられるようで
それがまた何故か寂しくなり始める

こんな風に時間を刻む毎日に
意外と多くの隙間がありそうで
それに埋まっていったものが
いずれ自分を飲み込んでしまうのかと思うと
少し恐ろしくもあるけど
それでもきっと必要なのだと悟る

眠くなる午後のカフェタイム
ノートに向かいながら思うことがあって
もし明日からこの時間が消えてしまってもいいなら
今のままの温度でいてほしいと思ってしまった
そんなありさまが
どこか可哀そうだとは思わなかったけれど
とても切なくて仕方がないのだった

ちなみに配信はDMMブックス、Kindle、BOOK☆WALKERあたりで読める。

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